2012/12/10

先生の部屋

先生の部屋にはソファが3脚か4脚かあって、私はどこに座ったらいいか分からなくなる。
先生は客人がいないときはドアを開けて手前のデスクに向かっていて、患者が来るとやさしくその名を呼び、招き入れ、やっぱり座る場所の分からない椅子に座らせ、自分は窓側のデスクに向かう。
帰るときはわざわざ歩いていってドアを開けて送り出してくれる。
こんなことされたことはない。
ドアのところで先生と横に立つから、だいたい175cmくらいあるのかなって見える。 ソファは上質な皮でできているみたいで柔らかくて、ゆったりと身体を沈められるようになっているけど私は一度も背もたれに背を付けたことはない。 先生は40代で(に見える)結婚している。
やさしい物腰で、アワアワ言ってる私の台詞を反復しながらまとめるから、分かってもらえた気になる人は多いと思う。
きっと女性のファンもいっぱいいるんだろうなぁと推測する。
先生会いたさに病状が長引いてる人もいるかもしれない。 私も抱かれたいなぁって思った。
私のおじさん好きはほとんど病気といえる。
この深く沈むソファに乗ってきてくれてもいいよと思ったところで先生の左手薬指が目に入りあわてて壁一面の本棚の蔵書を盗み見たら、文庫本のようだった。
あとは本棚にちょこんとタイガーマスクのフィギュアがあった。
マントを風になびかせている。勇ましい。 知ってるよ。ここは先生の部屋じゃない。 いろいろ思いを巡らせてるうちに気が付いたけどドア開けて送り出しってのは診察時間短縮の技なのだろうし
あのドアはいつも先生が開けて先生が閉めるから患者の指紋はひとつもついていないのかもしれない。
私はドアノブの形さえ知らないんだ。
まあどうでもいいことだけど。

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