2019/05/19

26 外国籍被告人の窃盗裁判傍聴記

裁判官入廷。起立、礼。

通訳選定。
通訳は知的な年配の女性。被告人インカム装着。マイクテスト。書記官がマイク直す。

人定質問。
被告人が名前、本籍、生年月日、職業などを答える。
※被告人は母国語で話す、すべて通訳を介している。

検察官、起訴状朗読。
「リュックから100米ドル、50UAEディルハム、充電器、旅券、パスポート、ジーンズ、Tシャツ他9050円相当を盗んだ」
※朗読するところはあらかじめ準備した原稿を読んで、同時通訳している。とても速い。

裁判長、黙秘権告知。

裁判長:「事件の内容はそうですか。間違っていますか」
被告人:「合っています」
弁護士:「そのとおりです」

検察官、冒頭陳述。
○月○日被告人は午前9:30頃ホステルロビー階にて盗みをはたらき、2階トイレにそのリュックサックを持ち去り、ポケットからお金(100ドル、50ディルハム)他使えそうなものを抜いた。他被害者の私物が2階避難はしご入れから見つかった。

証拠調べ。

検察官が裁判所に提出した書類等の説明。
被害者は兄とともに同ホステルに滞在。午前9時40分頃ロビー階にリュックサックを置き忘れたことに気付き取りに戻るが、なくなっていた。
被害届。
ホステル写真などの証拠。
犯行時の服装はニット帽、めがね、パーカー。
防犯カメラの映像。
ホステル支配人による部屋の利用状況を報告。
2万円の贖罪寄付の報告。

「犯行時にニット帽」と聞くと、窃盗するためにかぶった感じ。彼は普段からニット帽。

弁護人が贖罪寄付をしたことの説明。
弁護人から被告人質問。

弁護人:「リュックがあったので盗もうと思いましたか。リュックを見て盗もうと思いましたか。盗むことを計画していましたか」
被告人:「意図していません。偶然でした」
弁護人:「動機は?」
被告人:「好奇心からです」
弁護人:「思わず盗んだ?」
被告人:「とっさに、偶然にです」
弁護人:「外国の紙幣がありましたが使い込みましたか」
被告人:「利用していません」

裁判長:「(弁護人に)短文で聞いてください」

裁判長が弁護士に短く、区切って、と。なごやかな感じ。

弁護人:「贖罪寄付をなぜしましたか」
被告人:「申し訳ないと思ったからです」
弁護人:「前歴はありますか」
被告人:「日本でも自分の国でもありません」
弁護人:「英語教育の資格を持っていますか」
被告人:「○○○(聴き取れない)があります」
通訳士:「何か分かりませんけど○○○(聴き取れない)があります」

たぶん資格名の頭文字。「何か分かりませんけど」は通訳士の意見かと。

弁護人:「この後日本にとどまって仕事をするか本国に帰るかどうしますか」
被告人:「◯月末に帰国する旅券を持っています」
弁護人:「◯月まで日本で何をするんですか」
被告人:「働きたいと思っています」
弁護人:「帰国した後はどうしますか」
被告人:「電機技師として働きます」
弁護人:「勾留中何を考えていましたか」
被告人:「自問自答していました。お金がほしかったわけじゃない」
通訳士:(何度もうなづきながら訳す)
弁護人:「今はどんな気持ちですか」
被告人:「反省しています」

裁判は一切の無駄がなく進んでいった。

検察官から被告人質問。

検察官:「旅行で来ていますか」
被告人:「ミュンヘンでビザを取りました」
検察官:「盗まれたらどんな気持ちか分かりますか」
被告人:「私もカメラを盗まれたことがあるので分かります」
検察官:「それならどーして!やったんですか」
通訳士:「…文章になってない…」

たたみかけるように「どーして!」その返答が聞き取りずらそうな通訳士。
あとで彼に聞くと、地元の言葉(方言のようなもの?)でしゃべった、と。

検察官:「取り調べ受けましたね。犯人だと否定したことはなかったですか」
被告人:「3回あります。拒否権があったからです」
検察官:「なぜ認める方に変わったんですか」
被告人:「留置場にいるのはよくないと思ったからです」
検察官:「最初から認めなかったんですか」
被告人:「はい」
検察官:「◯月まで日本にいるんですね」
被告人:「◯月末までいます」
検察官:「どこに泊まるんですか」
被告人:「まだ決めていません。ホステル(簡易宿泊所)です」
検察官:「(○○(犯行現場の)ホステルに戻りますか」
被告人:「ホステルに謝罪したいですが戻らないです」
検察官:「頼れる人はいるんですか」
被告人:「います」
検察官:「今日来ているんですか」
被告人:「はい」

私の方を見たから私もうなづいた。

通訳士:「はっきり話して…」

もともと声が小さい彼がもっと小声でしゃべる上、少し距離があり、地元の言葉でしゃべったりするので聞き取りにくそうな通訳士。
外国人の裁判において、通訳はとても責任の重い仕事と感じる。

検察官:「仕事は何をするんですか」
被告人:「レストランとか」

ここはさっき弁護人から聞かれた、英語教師ではないのか!?

検察官:「就労ビザはありますか」
被告人:「あります」
検察官:「ビザ、確認してくださいよ」
被告人:「日本で働く証明書あります」
検察官:「また日本に来ますか」
被告人:「考えていません」

この時点で彼は刑務所送りを覚悟していたと思う。よりいっそう自信のない背中を見せる彼。

検察官:「被害者に対してどういう気持ちですか」
被告人:「個人的に謝りたい気持ちです」

また弁護人から。
弁護人:「英語の先生をしたい気持ちはありますか」
被告人:「あります」
まじめさをアピールする弁護人。

検察官、論告・求刑。
盗まれた品物は金額にすると2万円程度。
被害者は怖くて仕方がないと。
逮捕が早かったのは警察がすばやく検挙できたから。
贖罪寄付をしたが反省しているか疑問が残る。
1年6ヶ月を求刑します。

弁護人、最終弁論。
計画的な犯行でない。
盗まれた紙幣は計9050円程度と額も小さい。
被害者にすべて還付している。
反省し、2万円の贖罪寄付も行った。
前科がない。
英語教師の資格を有して働く意思もある。
現時点で2ヶ月間の勾留をされ、一定の処罰を受けている。

被告人、最終陳述。
申し訳ないと思っています、と再度。
私はドイツ語を勉強し始めていたので、彼が”Es tut mir leid(申し訳ありません)”と言ったのが分かった。

裁判長が判決公判の日程を弁護人、検察官、通訳士に確認して終了。
傍聴席はほぼ満席くらいに人がいたのでみんなでエレベーターに乗り込みほうぼうに散らばる。隣にいた人が、「好奇心ねえ」とつぶやいた。

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